スピカ
「ほー、収穫有りだったんだ」
ベッドの支配者が、ニヤニヤと笑みを浮かべてこっちを見ている。猫の尻尾でも付いていそうなくらい、ふてぶてしい態度で。鼻につく。
「で、付き合うの?」
何なんだ、コイツは。思春期かっつーの。
「別に、そんなんじゃないし」
ふーん、と不納得なご様子。
楸さんが納得しようがしまいが、あたしにはどうだっていい。わざとらしく深い溜め息を吐いてやった。
「てか、どいて下さい。早く」
でも、一向に退こうとする様子はない。そればかりか、楸さんは肘を突いて悪戯っぽい視線で目配せしてくる。
「どんな奴? いい男?」
「は? 関係ないでしょ」
「気になる」
「嘘つけ」
「本当だって。ね、どんな奴なの?」
どうしてそんなに聞きたいのか、皆目見当もつかない。楸さんの事だから、1回聞いてくると、答えを言うまで聞いてくるだろう。視線に負け、あたしは目を宙へ泳がせた。
「いい男だよ、楸さんの5倍くらい」
大袈裟に言ったつもりはない。
本当の事だ。
女を捨てては変えを繰り返している、貧乏でダメな楸さんより、優しくて気も利く洋君の方が、5倍はいい男なのだから。
不意にベッドの方を見ると、ちょうど目が合った。いや、ちょうど目が合ったんじゃない。楸さんの視線は、ずっとこっちに向いていたんだ。
体の芯まで行き着かない、ぞくりとした感覚。弱いのに、確かな冷たさがそこにはあって、悪寒を覚えてしまう。
その黒い瞳が、嫌い。
「へぇー……」
その視線をこっちに向けないで。
眼を、逸らせなくなるじゃないか。
笑わない目のまま、口元だけが静かに笑った。
「そ、なんだ」
どうして、そんなにもショックそうなんだよ。
納得いかない、って顔をしているくせに。自分がそんなにいい男だと思ってたのだろうか。意味が分からない。
傷付く所じゃないでしょう、そこは。
どうしてあたしが罪悪感に苛まれなくちゃいけないんだ。
楸さんなんか嫌い。
「寝るから、出てって」
そうやって退けるんだ、いつも。
ベッドの支配者が、ニヤニヤと笑みを浮かべてこっちを見ている。猫の尻尾でも付いていそうなくらい、ふてぶてしい態度で。鼻につく。
「で、付き合うの?」
何なんだ、コイツは。思春期かっつーの。
「別に、そんなんじゃないし」
ふーん、と不納得なご様子。
楸さんが納得しようがしまいが、あたしにはどうだっていい。わざとらしく深い溜め息を吐いてやった。
「てか、どいて下さい。早く」
でも、一向に退こうとする様子はない。そればかりか、楸さんは肘を突いて悪戯っぽい視線で目配せしてくる。
「どんな奴? いい男?」
「は? 関係ないでしょ」
「気になる」
「嘘つけ」
「本当だって。ね、どんな奴なの?」
どうしてそんなに聞きたいのか、皆目見当もつかない。楸さんの事だから、1回聞いてくると、答えを言うまで聞いてくるだろう。視線に負け、あたしは目を宙へ泳がせた。
「いい男だよ、楸さんの5倍くらい」
大袈裟に言ったつもりはない。
本当の事だ。
女を捨てては変えを繰り返している、貧乏でダメな楸さんより、優しくて気も利く洋君の方が、5倍はいい男なのだから。
不意にベッドの方を見ると、ちょうど目が合った。いや、ちょうど目が合ったんじゃない。楸さんの視線は、ずっとこっちに向いていたんだ。
体の芯まで行き着かない、ぞくりとした感覚。弱いのに、確かな冷たさがそこにはあって、悪寒を覚えてしまう。
その黒い瞳が、嫌い。
「へぇー……」
その視線をこっちに向けないで。
眼を、逸らせなくなるじゃないか。
笑わない目のまま、口元だけが静かに笑った。
「そ、なんだ」
どうして、そんなにもショックそうなんだよ。
納得いかない、って顔をしているくせに。自分がそんなにいい男だと思ってたのだろうか。意味が分からない。
傷付く所じゃないでしょう、そこは。
どうしてあたしが罪悪感に苛まれなくちゃいけないんだ。
楸さんなんか嫌い。
「寝るから、出てって」
そうやって退けるんだ、いつも。