スピカ
 看板の電飾が不自然な色の影を作る。オレンジに染まった頬がどこか温かい。

カレンダーを意識してか、街は一足早く秋一色になった。オレンジや黄色や、赤の飾りばかり。まだ街路樹は青々としているって言うのに。
日本人っていうのは、寂しいと決め付けていながらも、何かと秋という季節が好きらしい。

骨張った手の中にある缶ジュースも、まだ冷たい物で。さっき買ったばかりなのに、もう周りに水滴がついている。

「いる?」

え、と視線を上げると、オレンジに染まった睫毛が距離を狭めた。

「いや、欲しそうだったから」

慌てて首を振る。すると、洋君は笑いながら缶を揺すぶった。

「何だ、てっきり好きなのかと思った。レモンティー」

中の液体が小さく音を立てる。もうそんなに残っていないみたい。別に、欲しい訳じゃないけど。

「洋君は好きなの?」

特に意味はない。何となく話を流すのは可哀相だから、聞いてみただけ。
それなのに、洋君は優しく笑うんだ。

「うん、好き。甘過ぎないし」

何だか、罪悪感。良い人って案外難しい。自分の醜さが思い知らされてしまうんだ。
洋君みたいなタイプの人間は、正直、初めてだ。あたしには、軽い男か変な男しか寄り付かなかったから。
どう接していいのか分からない。

「亞未ちゃん、進学するんだって?」

「ああ、うん。そうらしいね」

人通りが少なくなってきた。
あたし達は結構な時間をここで過ごしている。別に誰かを待っている訳じゃない。ただ、他愛もない話をしているだけだ。

洋君は缶に口を付けると、一気にそれを傾けた。喉仏が小さく脈打つ。
こんな所はちゃんと男の子で、やっぱり目が行ってしまう。そう考えると、あたしもちゃんと女の子だったらしい。なんて、笑ける。
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