スピカ
「悠成が、遊べなくなって寂しいって言ってたよ」

中に残った水滴を今1度地面へ捨て、辺りを見渡すかのように眼が鋭く動く。少し離れた所にごみ箱を見つけると、洋君は手首を使って、空き缶をごみ箱目掛けて投げ捨てた。

カランと音を立てると、ギリギリのところで洋君の空き缶がごみ箱に入った。
なかなかの命中率。そういえば、バスケットボールをやっていた、とか何とか言っていたような気がする。とても上手いという訳ではなさそうだけど。

「悠成君は就職だっけ? ……仕方ないよね」

「ドライだね」

それも仕方ないでしょう。そういう性格なのだから。
言われ慣れている言葉なのに、どこか刺を含んでいて。チクリと胸が痛んだ。

「雅ちゃんは卒業したらどうすんの?」

「あたしは、専門学校に行く」

「専門?」と繰り返すと、洋君はさっきと一転して目を輝かせた。
弧を描く唇からは歯がちらついていて、女の子みたい。さすがヤン高西のプリンス。あたしなんかよりも可愛いじゃないか。

「何の?」

「調理……か、洋菓子」

「料理出来るんだ」

「うわっ、失礼な! あたしだって出来るよ、料理くらい」

優しく笑うその頬が、好き……かも。
厭味がなくて、あたしまで頬が緩んでしまう。洋君って、不思議な人だ。

好きって、こういう事なのかな。

期待しても、いいのだろうか。


遠くに投げた視線がどこか切ない。
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