スピカ
 うちは、アパートの大家をしている。
アパートとは言っても、本当に小さなアパートで、すぐ横に我が家が並んでいる。簡単に言うならば、庭にボロアパートが建っている、そんな感じ。
家賃も割と安くて、住んでいるのは近くの大学に通う大学生がほとんどで。楸さんもそのうちの1人だ。

いくらお母さんが誘惑されそうだからと言えど、あたしが集金に行かなきゃならない意味が分からない。
あたしは別に興味がないからいいけど。それでも、神経質な性格上、奴のルーズさにいちいち腹が立つ。
いい加減、本気でドアを壊してしまいそうだ。



「そういえば、今日は良平君と遊んだりしないの?」

ふと蛍姉があたしに視線を移す。
と同時に、ズキッと心臓が小さく痛んだ。

「あー……、別れた」

「え? また?」

また、だなんて心外だ。あたしは悪くないのに。
蛍姉は鈍感で、時々イライラする。

「うるさいなぁ。放っといてよ」

「なら、何も言わないけど」

「……」


良平っていうのは、前の彼氏の事だ。
つい先週別れたばかりとは言っても、大して傷ついた訳じゃない。でも、やっぱり今は話題に出したくない。

付き合ってた期間はたったの3週間。

あたしは、いつもこうだ。
どれも長続きしない。

でも、あたしが振る訳じゃない。別れる理由なんて知ったこっちゃない。
ヤッちゃえば終わり、なんてのが今1番考えられる理由じゃないだろうか。

そんな理由で振られるなんて、プライドもズタズタだ。あたしにそんなものが存在するのかさえ、分からないのだけど。

大して好きでもない相手と付き合うあたしも悪いと言えば悪い。

だけど、

こんな事の繰り返し、もう疲れた。

当分彼氏なんていらない、というのが本音で。
ベタベタするのは元々好きじゃないし、いなくても別に寂しくない。

大して好きにもなれなかった相手に傷つけられるなんて、もう沢山。

早くも男に飽きた、高校3年の夏。


気楽に暮らして、それなりに笑えれば何だっていいんだ、あたしは。
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