スピカ
「ちょっと!」

え?と言いながらも、青い箸を止めようとしない。それがあたしをイライラさせるのに。正面にいる楸さんを目一杯睨み付けてやった。

「その肉、あたしが焼いてたんだけど」

「あ、そうなの? ……ごめん」

何だ、その間は。
明らかに反省してないだろ。

「ごめんじゃねぇよ」

ぼそりとそう呟くと、横にいた蛍姉が呆れたように笑った。

「ま、いいじゃん。ほら、ハラミ焼いてあげるから」

蛍姉が鉄板に肉を乗せると、香ばしい音がした。焼けるまで待っているのも何だか悔しくて、近くにあったカルビを摘む。
楸さんはそれを見て、気を遣ったつもりなのか、にこりと笑った。

「雅ちゃんが焼いたから美味しいよ」

厭味か?
口の中に広がる脂に、吐き気がする。肉は肉でも、脂は好きじゃないのに。
恨めしく睨むと、楸さんは困ったように首を傾げた。

「あ、そういえば最近、雅ちゃん、帰り遅いよね。デート?」

「あ、」って何だよ。
話を逸らすのだけは上手いんだから。
呆れて突っ込むのも面倒臭い。

「違う。文化祭の準備だよ」

水で口の脂分を流そうと思ったけれども、そうもいかない。水と油は混ざらないんだった。まだ口の中がドロドロしていて気持ち悪い。
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