スピカ
 文化祭2日目、しかもお昼時だという理由からか、客足は昨日より格段に多い。

カレーなんて一体どこが美味しいのか、あたしにはいまいち分からないのだけれど。それでも、今あたしが必死に運ばせられている食べ物は一般的に美味しい部類に属するらしい。

バイト慣れをしている亞未は、営業スマイルを作ったり、機敏な動きをしたり、とかなり忙しそう。要領が悪いのか、あたしにはイライラしか募らないのだけれど。
こんなにも忙しいなら、1日目に店番を入れるべきだった。

おまけに、無駄に話し掛けてくる客もいるのだ。いわゆるナンパってやつ。この忙しそうな状況を見ても、どうやら分からないらしい。
迷惑極まりない、と思いながらも、小さな紙を幾つも受け取った。電話番号やら何やらが書いてあるのだろうけど、正直なところ、要らない。帰ったら捨てよう、と思うあたしは薄情な奴だ。

それなのに、このまま永遠に終わらないような気さえしてしまう。時計を確認してみても、さっきから5分も経っていなくて、このまま永遠に交代時間が来なければどうしよう、とうんざりするくらい妄想ばかりが膨らんでいく。

末っ子で、ぬくぬく温室で育てられたあたしには、バイトなんてきっと出来ないだろう。将来の事を考えると、ますます気分が沈んでしまいそうだ。実際は、そんな余裕もないのだけれど。

はぁ、と小さく溜め息が零れ、近くの紙皿をトレイに乗せた。
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