スピカ
「あ、雅がへこんでる」

見ていたのか、横を通り過ぎた亞未が小さく笑った。

「……へこんでないやい」

むすっと口を尖らせてみせる。
確かに落ち込んでいる訳じゃないけど、何だか惨めな気持ちだ。

「少しはニコッて笑えよー。無愛想な態度が、余計に無愛想だよ?」

「知ってますよ、そんな事。作り笑いが出来たら、もっと前からやってますぅ」

「……ちょっとやってみ?」

躊躇いながらも、少しだけ口の端を上げてみる。自然と細まる視界が、霞んでいて気持ち悪い。

「あははははっ……!」

眉間に何本もの皺を寄せて、顔を押さえる亞未。途端に、あたしは作り笑いらしき表情を止めた。

「おい。何笑ってんだ、てめぇ」

「だって! 不自然すぎるし……ぶっさいくで、あはは……!」

不細工ってか?
やれって言ったのは誰だよ。
この笑い虫を1発殴ってやろうかと拳を握り締める。

けれども、戻ってきたちーちゃんに「笑ってないで運べ!」とぴしゃりと一喝されてしまった。はーい、と眉を歪ませたまま、亞未は小動物のように忍び足であたしの横を通り過ぎていく。

ピリピリした空気が漂う中で、亞未だけが笑いを零していた。
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