スピカ
「やっと終わったけど、もう他の店回る元気出ないね……」

「もう、ずっとここで涼んでたいよー」

根が生えたかのように、お尻が動こうとしない。動かす気も満更ないのだけど。
1番頑張っていたにも関わらず、ちーちゃんはテキパキ汗を拭いたり化粧を直したりしている。

「ちーちゃん、誰と回るの?」

亞未がそう言うのを聞いて、彼氏?と付け足してみる。ちーちゃんに彼氏がいたかどうかは、はっきりとした記憶がないのだけれど。
呆れたような顔をするかと思いきや、ちーちゃんは遠慮混じりの笑顔を作った。

「ううん、回んない。店忙しそうだから、もうちょっと手伝うよ。あたしは彼氏とかいないしさ」

え、と声が重なった。
見開いた目が、勢いでパチリと瞬きする。

「手伝うって……本気で?」

うん、と苦笑いを漏らす。

……良い人過ぎるだろ。
ちーちゃんだって、へとへとに疲れているはず。それに、せっかくの文化祭なんだから色々回りたいだろうに。

「が、頑張るねぇ……」

あたしにはそんなサービス精神、どこからも湧いてこない。多分、亞未も同じ事を思っているだろう。
2人で感心していると、ちーちゃんは「それに、」と言葉を加えた。

「最後くらい賞、取りたいしね」

ああ、そうか。
来年の今頃は卒業しているから、あたし達にとって、これが最後の文化祭なんだ。

ほんの一瞬だけ、教室全体が静かになった気がした。
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