スピカ
「……あたしも、もうちょっとだけ手伝おうか?」
慌てて横に目をやる。
だって、亞未には用事があるはずなのに。
視線に気づいたのか、亞未は「まだ時間ありそうだし」と呟いた。
あたしも、だなんて、そんな事あたしには言えない。しんどいから嫌だ、とかそういう理由じゃなくて、ただ単に約束があるからだ。どちらにも良い顔をする訳にはいかない。
だけど、亞未はそういう子だ。
心配性で、いつも周りを気遣っていて。
いくら口調がきつかろうが、あたしとは違って、自分より相手を優先させるような奴だ。よく出来た人間だよ、本当に。
それを知ってか、ちーちゃんは更に苦笑いを作った。
「いい、いいって! 皆は約束あるでしょうが。そっちに行ってよ」
「でも……」
「あたしは好きでやるんだから、気にしなくていいの! あんた達は担当の時間終わったんだからさ」
その笑顔が逆に痛々しい。
薄情なあたしもさすがに罪悪感に苛まれ、言葉に困ってしまう。か細い神経が、下手な言葉を発さないようにブレーキをかけようとする。
「そっか……ごめんね、ちーちゃんばっかり頑張ってもらって」
「ううん、気にすんなって」
作り笑いを浮かべ、ちーちゃんはぐっと背伸びをした。蔓のような腕が伸び、背の高さを強調する。
ふう、と一息吐くと、黒目勝ちの眼がぼけっとしている2人を捉えた。どうやらあたし達は目の前の女に見取れていたらしい。
「じゃ、第2部行ってくるかぁー!」
出口に向かう背中が、どこか男前。
開けっ放しのドアに手を掛け、ニッとした顔が振り返った。
「青春してこいよ、諸君! じゃあ、また後でね」
うん、と返事をすると、手を振りながら、ちーちゃんは長方形の額縁から消えていってしまった。
途端に、教室が静まり返ったような気がする。いつの間にかこんなにも人が減っていた事を、今になって初めて知った。
無意味に続く沈黙が、息苦しさを呼ぶ。
暑さよりも、虚しさよりも、寂しさが残ってしまった。
慌てて横に目をやる。
だって、亞未には用事があるはずなのに。
視線に気づいたのか、亞未は「まだ時間ありそうだし」と呟いた。
あたしも、だなんて、そんな事あたしには言えない。しんどいから嫌だ、とかそういう理由じゃなくて、ただ単に約束があるからだ。どちらにも良い顔をする訳にはいかない。
だけど、亞未はそういう子だ。
心配性で、いつも周りを気遣っていて。
いくら口調がきつかろうが、あたしとは違って、自分より相手を優先させるような奴だ。よく出来た人間だよ、本当に。
それを知ってか、ちーちゃんは更に苦笑いを作った。
「いい、いいって! 皆は約束あるでしょうが。そっちに行ってよ」
「でも……」
「あたしは好きでやるんだから、気にしなくていいの! あんた達は担当の時間終わったんだからさ」
その笑顔が逆に痛々しい。
薄情なあたしもさすがに罪悪感に苛まれ、言葉に困ってしまう。か細い神経が、下手な言葉を発さないようにブレーキをかけようとする。
「そっか……ごめんね、ちーちゃんばっかり頑張ってもらって」
「ううん、気にすんなって」
作り笑いを浮かべ、ちーちゃんはぐっと背伸びをした。蔓のような腕が伸び、背の高さを強調する。
ふう、と一息吐くと、黒目勝ちの眼がぼけっとしている2人を捉えた。どうやらあたし達は目の前の女に見取れていたらしい。
「じゃ、第2部行ってくるかぁー!」
出口に向かう背中が、どこか男前。
開けっ放しのドアに手を掛け、ニッとした顔が振り返った。
「青春してこいよ、諸君! じゃあ、また後でね」
うん、と返事をすると、手を振りながら、ちーちゃんは長方形の額縁から消えていってしまった。
途端に、教室が静まり返ったような気がする。いつの間にかこんなにも人が減っていた事を、今になって初めて知った。
無意味に続く沈黙が、息苦しさを呼ぶ。
暑さよりも、虚しさよりも、寂しさが残ってしまった。