スピカ
 ビビッドカラーが視界をちらつく。
こんな衣装でうろうろしたら、仮装した人込みの中でもきっと凄く目立つだろう。

ただでさえ人酔いするというのに、はっきり誰という訳でなく、ぼんやりと下で楽しそうに店を回っている人達を目で追う。
他校の人や、保護者や卒業生が、川のように流れていく。何回も通る人もいれば、あたしの目には止まらない人だっている。

ただ、あたしの眼には映るだけで、見られている人はそんな事知らない。だって、目の前の娯楽に夢中で、上を見る人なんて1人もいないのだから。

「雅、誰と回んの?」

「誰って、……」

派手な女が、1年の男の子に声を掛けている。名前は分からないけど、かっこいいって有名で、一時期噂になってたっけ。
確かにかっこいいけど、別に好みじゃないから興味はない。
……あたしの好みって、何だ?

「洋君?」

「え?」

ギクリとして、思わず派手な女からピントがズレてしまった。
心の中を読まれてしまったのかと思った。

「洋君と回んの?」

ああ、と呟き、停止してしまった視線を派手女に戻す。
どうやら口説き落とせたらしく、携帯番号を交換し始めた。男なんて、所詮はそんなもの。寄ってくる女は誰だっていいのだ。

なんて、あたしが言えた事じゃないな。

「うん、……多分」

洋君だって所詮は、男。分かっていても、そう思おうと出来ないあたしは愚かだ。

そっか、と言う亞未の声からは表情が読めない。何か考えているのか、何も考えていないのか。
秋風が露出した肩を撫で、歯を鳴らす音が間を通る。

「……亞未は、」

言葉を切ると、亞未はわざとらしく視線を人込みに逃がした。

「あたしは、ハルキが来るから……」

「そういえば、さっきそう言ってたか」

……覚えてたけど。
ハルキ君……幼馴染みの方が、彼氏より大切なんだ。亞未にとっては。

「後夜祭は、悠成と出るつもりだけどね」

そう加えると同時に、小刻みな振動が隣りから伝わってきた。窓辺に置いた携帯電話の、小さなディスプレイには黒電話の絵が緑に点滅している。

亞未は「電話だ」と呟き、携帯電話を耳に当てた。

噂をすれば、ご本人の登場という訳だ。
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