スピカ
 着替えを終えた亞未が「財布、財布」と言って、辺りをうろうろしている。
財布を失くすなんて、馬鹿だろ。

「あれー?」

「……ないの?」

「違う。どこにあるのか分かんないだけ」

あっそ、と空返事を返す。
汗も引き、窓から入って来る秋風が、ようやく肌寒く感じるようになってきた。
さっきまでは気づかなかったけれど、季節のわりに、この衣装は露出し過ぎている。安っぽい生地で出来ている上に、10月に肩を出すなんて、自殺行為だ。
昨年だって、文化祭が終わってすぐ、風邪が大流行したのを覚えている。

「……お、あった!」

亞未は鞄の中に手を突っ込んで、ニタァと笑っている。端から見ると、泥棒みたい。

「ね、換金所ってどこだっけ?」

「何を今更……」

「だって、昨日は雅が買い過ぎたからって分けてくれたじゃん」

そういえばそうだっけ。
ダメだ。最近、記憶力が悪くなってきている。勉強って、しないとどんどん馬鹿になっていくものなのかな。

「換金所は、1階の生徒会室じゃな……」

「藤代さん、いるー?」

言葉を遮られ、しかも指名されてしまうとは。
ドアから覗き込んでいる女の子は、返事をする前にあたしの姿を見つけ、「あ、いたいた」と呟く。

「いましたよ。ほら、あそこ」

と、声を掛けた相手を見て、あたしは肝が一瞬浮いた気がした。
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