スピカ
「ありがと、ご親切に」

頭に手を乗せられ、熱を帯びた顔が向く先には、にっこりと微笑む茶髪の男が。
手が離れると、女の子は大袈裟にブンブンと首を横に振った。

緩んだ目尻が、ふとこちらを捉える。
浮かび上がったままの心臓が、更にぎょっとしてしまった。

「雅ちゃん! やっと見つけたー」

おい。さっきまでの気取ったキャラはどうしたんだよ。
呆れと憂鬱で、目元が引き攣る。

「……ひ、楸さん」

楸さんはいつも通りの笑顔を見せると、躊躇いもなくズカズカと教室の中に入って来た。

「どこにいるか分かんなかったから、案内してもらっちゃった」

「もらっちゃった、じゃねぇよ。つか、本気で来るなんて聞いてないんですけど」

「俺はいつも本気ですぅ」と口を膨らます仕種が、殴りたい衝動を掻き立てる。
口だけは誰よりも達者で、本当に迷惑な話だ。どうせなら落語家になればいいのに。
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