スピカ
「新しい男でも漁りに行こうよ! せっかくの夏休みが台なしじゃん」

無理に笑う亞未が、少し意地らしい。
いくら振られても、いくらポイ捨てされても、絶対あたしに同情なんかしてこない亞未は立派だ。
それが亞未の優しさだし、あたしが亞未に求めるものだから。


「ううん、いい。もう当分、彼氏とか要らない。何か疲れたし」

あたしがそう言うと、亞未は口を尖らせてもそもそとポテトを食べた。その様子が青虫みたいで、どこか可笑しい。
笑いそうになりながら、あたしは落ち着いて炭酸水を口に流し込んだ。

「それに、亞未には彼氏がいるじゃん。あんまり連れ回したら悠成君が可哀相だよ」

亞未は小動物のように耳を立てる。明るい茶髪の間から、兎の耳でも本当に生えていそうだ。

「別にいいよ、悠成は! 怒ったりしないから!」

そんな事言われても。
亞未の彼氏から見たら、あたしはただの悪友にしかならないでしょ。

「まぁ、亞未が気遣う事じゃないよ。本当に当分彼氏なんか欲しくないし」

そう、と言って、亞未は視線を窓の外に移した。
不安げな眼が、暗くなった空を見つめる。ネオンに照らされた夜空は、寂しさなんて欠片も感じさせない。

それなのに、無力感を漂わせるこの空は、何だか悍ましい。亞未の視線の行方には、似合わない。

暗くなりきれない、中途半端で汚い都会の空は、あたしの方が相応しい。
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