スピカ
 キャー、と凄い声が上がった。まるで、誰かがライブでもしているみたいな歓声。
過剰に反応すると、亞未は慌てて窓の外を覗き込んだ。

「……なんだ、ブレイクダンスか。びっくりしたぁ」

心底安心したかのような顔。
亞未は窓から離れ、有名ブランドの名前が入った紙袋に、財布と携帯電話を手荒く詰め込んだ。

「あたし、そろそろ行くわ。あんまり待たせられないからさ」

「ん。行ってらっしゃい」

手を軽く挙げると、亞未は手をあたしへ、それから楸さんへ向けた。

「ごゆっくりー。じゃっ」

去っていく後ろ姿に手をひらひら振る、後ろ姿。
くるりと向きを変えると、楸さんは「行っちゃった」と小さく呟いた。
そんなにも亞未が気に入ったのだろうか。そんなの、生意気だ。

改めて目を丸くする楸さん。
真っ黒な眼が、あたしを捉えて放さない。

「……何?」

「あ、いや……。衣装、」

あ。と思った。
何も言わなかったから、そんな事、今の今まで忘れていたのに。
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