‡一夏の思い出‡
#03 触れた温度
「…瑠依」
翌朝、紫杏は一人で教室に居た
本当は剣道部の朝練があったのだが
どうにも気分が乗らず
集中力が無いため
サボって昨日までずっと瑠依と二人で問題を解きあかした
この教室の自分の席に座っていた
昨日
紫杏が状況を理解し
驚き目を開けたときには
もう、彼の姿はそこになかった
あれは、夢
だったのだろうか
昨日一瞬だけ触れた
あの熱を思い出し
ゆっくりと自身の唇を人差し指でなぞる
「いや、あれは…夢じゃなかった」
確かに感じた熱
優しく触れられた手
震えていた声
全部が全部リアルで
夢だなんて思えない