Chu-Lips
「…あの、先生、」
『おー、森山。ちゃんと来たな。』
名簿を付けていた井上先生が、不安な顔した柚に気付く。
『お前にな、ちょっと頼みたいことがあってな。』
「え?」
井上先生の言葉に、今まで暗い顔をしていた柚が、目を見開かせ驚いた。
何故なら、柚は人に頼み事をされるような人材ではないからだ。
それを、柚が一番よく分かっていた。
だからこそ、驚きを隠せなかったのだ。
「あのっ…私に、ですか?」
『そうだ。実はな、今日転入してきた伊津のことなんだが…』
「!?」
伊津の名前が出た瞬間、柚の心臓がドクンッ、と高鳴った。
「いっ、嫌です!」
『…森山?』
「私は、転入生とは何の関係もありませんから!」
伊津の名前が出た時点で、よからぬことを頼まれるだけだと思った柚は、すぐさま拒否反応を示した。
どうやら身体は、まだ5年前の悪夢を覚えているらしい。