Chu-Lips
公衆の面前で、しかも聖花がいる前で“嫌”とは言いにくい。
柚が首を振ることは少なく、しかも初対面からの誘いに柚が首を振るとなれば、勘の鋭い聖花が不審に思うことは間違いない。
柚は、聖花に自分が伊津と知り合いであることを知られたくなかった。
『行こう。』
『柚、いってらっしゃい…。』
聖花に見送られながら教室を出る柚。
伊津に腕を掴まれている状況を見て、ぁあ、最初から私に拒否権はなかったんだと思った柚だった。
――――…
伊津が柚を連れて来たのは屋上だった。
しっかりと、柚に屋上まで学校案内をさせながら。
『久しぶりだな?小柚?』
「っっ…」
綺麗な笑顔。
だけど、それは皆に向ける笑顔とは違う。
私を苛める…意地悪な笑顔。
『相変わらずチビだな。』
“小柚”と言われるのも、“チビ”とからかわれるのも5年ぶり。
“小柚”の由来も、小さい頃から柚は鈍くさく、チビな少女だったからだ。