Chu-Lips



「アメリカ……」


伊津と2人っきりになり、極度の緊張をしている柚は、単語しか口に出せない。

アメリカに、行ってたんじゃないの?


『ぁあ、帰って来たんだ。先週。』

「何で……、」


どうして?

ずっと、アメリカにいれば良かったじゃない。

5年前だって、私の顔見なくて済むって、言ってたのに…ッ

王様の考えてること、全然分かんないよ…っ!


『何で?そうだなぁー…まだ小柚には教えてやんない。』

「ぇ」

『今の小柚に教えても、意味無さそうだから。』


そう言って、微笑する伊津。

柚は伊津のお気に入りだった。

伊津は近くに置いておきたくて柚をからかったり、相手をしていたのに、柚はそれをイジメと思い込んでいるのだ。

それが、伊津にとって最も気に入らなかった。

柚を苛めたりしたのは、伊津の一種の愛情表現だった。

当然、鈍感で天然な柚は伊津の自分への態度が愛情表現だなんて気付きもしない。

どうしても、柚を自分のモノにしたかった。

だから、伊津は遥々アメリカから帰って来たのだ。

柚を手に入れるために。

もう、一生自分の元に置いておくために…――。



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