Chu-Lips
「教えて、くれないの…?」
悲しそうな柚の瞳。
5年前と変わらない柚の態度と、その瞳に、伊津は少なからず安心した。
まだ、柚は誰のものにもなっていないのだと――…。
『ぁあ、教えない。』
「そ、んな……。」
自分の言葉で一喜一憂する柚が、溜まらなく愛しかった伊津。
思ってることが表に出やすいところも、伊津が柚を気に入ってる理由でもある。
「ぁの…、」
『ん?』
途端にモジモジしだした柚。
何か聞きたいことがあるんだなと、柚のことを知り尽くしている伊津は思った。
「……どうして、この学校に…、その、」
『ぁあ、』
言わなくても大体分かる。
どうしてこの学校に転入してきたか、その理由が聞きたいのだろう。
『それも秘密。』
「なんでっ……」
『秘密だよ。』
何も教えてくれない伊津に悔しさが募る柚だが、
伊津にとっては、それを教えても自分の気持ちに気付いていない柚には意味のないことだと分かっていた伊津の判断からだった。