Chu-Lips
『ってかさ、小柚?』
「は、はい……」
一歩、一歩と柚に迫っていく伊津に、柚は危機感を感じて後ろに下がった。
な、何……
あと少しでフェンスに届くと言う時…、
『俺が帰って来たのに、全然嬉しそうじゃないな?小柚。』
「へっ…」
やっと伊津が口を開いた。
ぎりぎりまでは追い込むが、ちゃんと柚の逃げ道は作っておく。
今も、フェンスで逃げられないようにすればいいものを、そうしないのが伊津。
柚を思い通りにしたいが、無理に従わせるのはしたくない。
それが伊津のポリシーだった。
『小柚?何で喜んでくれないの?5年ぶりに帰って来たのに。』
カシャンっ…
「っ、それ、は……っ」
柚の背中がフェンスに当たる。
柚はいつも伊津が作った逃げ道に気付かない。
だから、どうしても伊津の思い通りになってしまう。
伊津も、今の柚の行動を見て、逃げ道を自分から捨てたと判断した。
そうなれば、こっちから追い込むまで、だ。
カシャっ、
「っ……!」
『ん?聞こえねぇ。』
伊津はフェンスに手を掛けて、もう柚を逃げられないようにした。