Chu-Lips
『…でっ、でもさ、じゃぁ何で柚はあたしに学校案内の同伴を頼んだの?知り合いなら…、』
「王様だから!」
『…え?』
“王様”?
柚の言葉の意味が分からなくて聖花は眉間に皺を寄せた。
「小学校の時、私、ずっと瑞季くんにいじめられてて…。」
『は?』
「“チビ”とか“ドジ”とか言われたり、給食当番を瑞季くんの分もやらされたり、捕まえた虫を私の顔の前で遊んだり、帰り道に瑞季くんのランドセルを持たされたり、瑞季くんの送り迎えやらされたり…。」
『わー…悲惨…。』
「私のこと“小柚”って呼ぶし、なんか知らないけど私の思ってること全部分かってるし、隙あらば私を苛めて楽しむし…ッ!」
『ぁはは…』
不機嫌な顔をする柚を前に、聖花は苦笑いを零すしかない。
聖花は気付いてしまったのだ。
伊津がそんなにも柚に構っていたのは、少なからず柚に気持ちがあったからだと。
少し話せばだれでも気付いてしまうような伊津の行動の意図に10年経っても気付かないのは柚だけである。
「…だから、あまり瑞季くんに近づきたくなかったの。また、苛められると思ったから…。」
『柚…。』
「…でも、さっき瑞季くんと話して…瑞季くん、なんかおかしかった。」
『え?何で?』
「だって…、私が泣きそうになったら、“泣くな”って、頭…撫でてくれて。5年前までは、私が泣いてても知らんぷりだったのに…。」
『………』
柚の鈍感さにあきれて、聖花は何も言えなくなった。
伊津の精一杯の優しさに、柚は全く気付いてないのだ。