Chu-Lips
「おバカさんは信じないの。私も…信じてもらえなかった。」
『………』
あまりに哀しそうな瞳をする柚を前に、聖花は固まる。
この子は…――どんなふうに生きて来たんだろう、とふと思った。
「小学校の先生は皆ね、瑞季くんと遅れて学校に来ると、いつも私だけを怒るの。」
『え』
「私が、瑞季くんと一緒にいるから、瑞季くんまで遅刻するんだって。ドジな私が瑞季くんと一緒にいるから、瑞季くんにまで迷惑がかかるって…。本当は、瑞季くんが我が儘言って遅刻してるだけなのに。」
『………』
「どんなに私が違うっていっても、信じてもらえなかった。瑞季くんは頭が良くて指示したことはちゃんとやる。だけど私はバカでドジだった。勘違いしてもおかしくないよね。私を信じないのも…しょうがないの。」
『柚……』
力なく笑う柚の笑顔が痛々しい。
本当は哀しいくせに。
信じてもらいたいくせに。
それを表に出さず耐えてる柚を見るのは…――聖花は居た堪れなくなった。
『だけど、皆が皆、信じないとは…――』
「いいよ、もうっ!」
『!!』
柚の大きな声に聖花は身を震わせる。
初めてみたのだ。
柚が眉間に皺を寄せているところを。