Chu-Lips



「っ……」

『帰さない。絶対。』

「み、ずきく――っ」


顔が、近い――…

瑞季の目が、身体が、柚を捕えて逃がさない。


『どれだけ、俺が我慢したと思ってんの?』

「が、まんって――…」

『“お前が欲しい”っていう、“欲望”だよ。』

「――っ!!」


柚の声は、最早出なかった。

息が詰まり、心臓もパンクしそうに脈を打つ中、瑞季からの言葉に何も言うことなんてできない。


『俺にくれ。全て…。柚の体も心も全部――』

「――っ…ん…!?」


抱き掬うように瑞季に引き寄せられて瞬間、唇に伝わる熱。


「ん…んーーっ」


キスされてると理解した柚の脳は、抵抗を指示した。


「…っ…んんっ……」


だが、所詮は男と女。

瑞季に手を掴まれるのは一瞬だった。





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