Chu-Lips
『ほら。』
「え…」
ボーっとしていた柚に差し出されたのは、りんごジュース。
瑞季はもうTシャツに着替えていた。
『さっき言ってただろ。喉が乾いたんじゃないのか?』
「あっ…ありがとう…!」
あの言葉、覚えてたんだ…。
素直に柚はりんごジュースを受け取った。
私のためにジュース淹れてくれるなんて…
本当に優しくなったな、瑞季くん。
『小柚。』
「ん?何?」
りんごジュースを飲んで笑顔になる柚。
瑞季はコーヒーを飲んでいる。
『覚えとけよな。』
「え?」
『俺の気持ち。』
「あ……」
『焦らなくていい。他の男なんて見ずに、覚えておくだけで。』
「……うん。」
柚が返事をすれば、瑞季は優しく柚の頭を撫でる。
柚は今日、最低最悪だった男と5年ぶりに再会した。
それは、5年前とは違い、優しさと男らしさをも持ち合わせた、最高の男だった―――…。