Chu-Lips
『あ~、今日も王子様は素敵ね~…。』
『当たり前じゃなぁい…あんな方、そうそういらっしゃるものではないのよ?』
「・・・。」
学校に着き、自分の教室に向かえば向かうほど女子の数は増えていく。
理由は勿論――…、
『おはよう。』
『『『きゃぁーーーっ!!』』』
王子様の笑顔をした瑞季だった。
咄嗟に、柚は瑞季の分のお弁当を身体の後ろにやり、隠す。
理由は特にないが、しいていえば、瑞季への反射的対応だった。
今でも柚は、あの頃の瑞季に対する重圧が抜け切れていないのである。
「…はぁ…。」
遠巻きに教室へと入って行った瑞季を眺めながら、柚は溜め息をついた。
また、渡す機会逃しちゃったな…。
毎日毎日、柚は瑞季にお弁当を渡せずにいた。
それならばどうやって、瑞季にお弁当を渡していたと言うのか。
それは――…、
『おはよー!柚ちゃん!』
「ぁ…、佳菜子ちゃん…。」
元気に柚へと挨拶をしながら、佳菜子が現れた。
『あれ?今日も作って来たの?それ…。』
「え、…あー、うん…。ごめんね、今日も渡してくれないかな…?」
そう。
柚の代わりに瑞季へお弁当を渡していたのは、なんと佳菜子だった。