Chu-Lips



『了解!貸して?』

「…はい。」

『じゃ、私の鞄よろしく~!』


お弁当と引き換えに渡された佳菜子の鞄。

笑顔を零しながら教室へと入って行った佳菜子を見て、柚は複雑な気持ちになった。

今、自分がしていることは、人を利用していることだということ。

それは佳菜子にとっても瑞季にとっても失礼であるということも、分かっているから。

それでも、自分で私に行くことが出来ない柚。

そんな臆病な自分が、とても歯がゆく思えて仕方なくなってしまうのだった。


恐る恐る踏み入れた教室は酷く騒がしくて。

自分だけが場違いな気がしてならなくなる柚。


『どうしたの~?柚!哀しいことでもあった?』

「せ、ぃかちゃん…。」

『ん?おはよっ!』


そんな柚を気にかける唯一の存在、聖花。


『今日も渡せなかったん?』

「…うん…。」


ふと視界に入ったのは、瑞季と佳菜子が仲良く喋っている姿。

見ていられなくなった柚は、すぐにそこから視線をそらした。






< 60 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop