Tricksters勤務外活動報告書
次第に二人の言い争いはヒートアップしていく。
魚殺の店主は、どのタイミングで警察に通報するべきか頭を悩ませていた。
「だいたい、お前はユカリさんのこと泣かせすぎなんだよ! 付き合ってやれないなら曖昧なことするな!」
男たちは肩を掴み合い、額をグリグリと合わせて睨みあう。
「ユカリは関係ないだろが! 淳一も李花ちゃんという可愛い彼女がいるくせにユカリのこと気にしすぎなんだよ!」
「しょーがないだろ! 毎日顔合わせてる『仲間』なんだから!」
「仲間?」
シーンと静まる店内。
魚殺の店主は固定電話の子機を握りしめていた。
「ハハハッ、仲間か……
ユカリが仲間なら、俺たちも仲間。
淳一好きだ! いーから食え」
淳一はスーツの襟を正すと「気色わりー」と舌打ちして桧のカウンター席に座り大トロに手を伸ばす。
「俺も、素手で食おう。『仲間』だからな」
ゼンが嬉しそうに淳一の肩を叩くと、店内はまた穏やかな高級寿司屋に戻る。
「あの……お客様……」
店主は涙目で、二人に訴える。
「ああ?」
「なにか?」
ゼンと淳一が顔をあげると店主は小さく首を振る。
───店の名前は『魚殺』じゃなくて『漁港』ですから!
店主の悲痛な心の叫びは二人には届かなかった。
都内高級寿司屋からの報告でした────