断崖のアイ
 スローイングダガー(投げ用ナイフ)のようだが、柄頭(つかがしら)の先端にはワイヤーが繋がれていてナイフは男の元に戻っていった。それに呆然とする。

 彼の武器は特殊だと聞いていたが、確かに操作の難しいものだと解る。相手は闘う気だ、雑木林という場所は幸運だったかもしれないと青年はホッとした。

 しかし──ニヤリと笑んだ男の手に、丸い金属の輪がある事に気がつき嫌な予感に木立の影に隠れる。

 泉はその輪を指で挟み優雅に投げつけた。

 その輪は真っ直ぐではなく木立を避けるように弧を描いて飛んでくる。投げ方によって自在に軌道を変化させるチャクラムという武器で、輪の外側は鋭い刃になっている。

「!?」

 青年はロッドを伸ばしチャクラムを弾いた。弾かれた武器は木立にめり込み、動きを止める。

「! 思っていたよりもやるじゃないか」

「こんなことを彼が良しとするとでも……っ」

「そんなことはどうでもいい。邪魔か、そうでないかだけだ」

 こんなものが彼を支えているのか!? 青年は驚愕した。

「なんだ、その顔は。裏ヴァチカンも神に仇なすと決定すれば、相手の意思など関係なく捕らえるじゃないか。それと何が違う」

 そう言われれば二の句が継げない。
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