断崖のアイ
 何も言わず宙を見つめる彼を、青年はただ静かにその姿を視界に捉えていた。

 絶大なまでの存在感は、ともすれば音もなく遷(うつ)ろう現世のゆりかごにも似た陽炎(かげろう)のように──

「クク……」

「!」

 絞り出すような彼の笑みに怪訝な表情を浮かべる。

「守る理由も捕らえる理由もただ人の意思だ」

 神がそられを真に望んでいるのかは解らないのだ。全てはただ、人の意識……思いこみに過ぎない。

「そうですね……その思いこみから、あなたは幼少の頃、連れ去られたのですから」

「!」

 送ってくる視線に意図がある事に気がつき見つめ返すと、青年は付け加えるように問いかけた。

「話していただけないでしょうか。アメリカでのことを」

 無言で青年から視線を外し、宙を見つめる。
< 106 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop