断崖のアイ
◆第５章～カナリアの鳴く夜

＊小さき空

「アレが生物兵器？」

　高価なスーツを着た男が鼻で笑う。

　ガラスの向こうには白い部屋の様子が上から見渡せた。その中に、1人の幼児が無言で立っていた。

「間違ってはいないな？」

　目の前の男に確認すると、その男は黙って頭を縦に振る。

「お前に間違いはないと信じたいが……まさかガキとは」

　半ば呆れて腕を組み、泣き叫びもしない男の子を眺めた。

　アメリカ合衆国、カリフォルニア州──リッチモンドの山の中にそれは建てられていた。コントラコスタ郡の西部にある市で、温暖な気候の地域だ。

　山間部に建てられた施設は、巨大な身を隠すように外壁が彩色され人知れずに存在していた。

「……」

　幼児は無表情に室内を見回す。その動きも緩慢で、彼らが望んでいたようなものではなかったのか見下ろしている男の顔は残念さを表していた。
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