断崖のアイ

　白く塗りつぶされた壁は１０ｍはある。頭上にちらりと見える反射はガラスなのだろうと考えて、眼前にあるドアがスライドするのを見つめた。

「こんにちは」

　女性が微笑みながら近づいてくる。グレーのタイトスカートに白いブラウスと薄化粧は好印象だが、メタルフレームの向こうに見える青い瞳に幼児の表情は微妙な色を見せた。

「名前、教えてくれるかな」

「……」

「ああ、私はサラ。よろしくね」

　差し出された手に幼児は応じるが、返答はせず女性をじっと見つめた。彼女は見上げられる瞳にしばらくは笑顔を浮かべていたが、徐々に戸惑いを見せ始め動揺を隠せなくなる。

「チッ……なにやってる」

　男は舌打ちし、ややミリタリー系の服装で身を固めた部下に視線を移した。

「お前が変わりに面倒みてやれ」

「！」

「連れてきたのはお前だ。同郷同士、気が合うかもな」

　軽く手を振り部屋から出て行く男の背中を苦々しく見送る。