断崖のアイ
 幼児のいる部屋のドアが再びスライドし、狼狽している女性の隣に男は立った。

「あとは俺がやろう」

「す、すいません……」

 声と体を震わせて女性は部屋から出て行く。それを見送り、幼児に向き直った。

「俺はブルー・ウェルナス」

 ぶっきらぼうに名乗った男は、片膝をついて目線を合わせた。

 あせた金髪に、北の空のような青い瞳と精悍な顔立ちは30代前半だろうか……何も表さない幼児の姿に眉間にしわを刻む。

「私はベリル・レジデント」

「!」

 おもむろに発せられた言葉はとても幼児とは思えないほどはっきりしていた。

「ベリルか、いくつだ」

「5歳です」

「訊きたいことがある。お前は……」

「私は造られました」

 淡々と述べられて男は目を丸くした。

「それが知りたいのではないのですか」

 予想が外れたと少し目を伏せる。

「いや、それも訊きたかった」

「では、他に何をお聞きになりたいのでしょうか」

 5歳のガキからバカ丁寧な言葉が出ていると思うと違和感を禁じ得ない。
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