断崖のアイ
「何かあれば報告してくれ」

 男は発すると、上に報告するために部屋から出て行く。その背中を無言で見送り、小さく溜息を漏らした。

 生物兵器だという確証は無いのは確かだが、マイナス方向での意見には躊躇いがあった。それによって、あの子どもがどうなるのかという思考が過ぎったからだ。

 この施設は数年前に造られた──アルカヴァリュシア・ルセタ(A国)の情報を入手したアメリカ合衆国は、今以上に遺伝子の研究を進めると共にA国からの奪取も考慮に入れた。

 ブルーは元々、故郷であるA国の陸軍に所属していたが12年前にアメリカに渡り国籍を取得した。

 傭兵を始めたが、彼の経歴を知った軍が勧誘し特殊部隊に所属したのち、『生物兵器』の奪取を命じられる。

 今にして思えば、初めからA国の人間であるという理由で軍に引き入れた感があった。

 この時のためにだったのだろうかと、思わずにはいられない。A国はバイオ技術に優れている、アメリカはそれを常に危惧しているのかもしれない。
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