断崖のアイ
「……」

 ベリルは室内を見回した。

 その瞳に感情は表されておらず、10mほどもある高い天井に明かりはなく四方の壁に設置されたライトが全体を照らしていた。

 壁の一角、上部にあるガラス張り部分にやや目を細め端にあるデスクに向かう。椅子に腰掛け、たった一つだけ設けられている窓に顔を上げた。

 男が施設に侵入した日──ベリルは寝付けずにいた。

 暗闇の中に響く微かな音と赤い光りに、施設の人間ではないとすぐに悟ったが敵意が無い事も同時に気付いていた。

 ゴーグルを外した男の目と合ったとき、その瞳に優しさを感じ取る。ベリルが抵抗しなかったのは、体格差で無駄だと解っていたからだ。

 それに、彼には逃げる場所などどこにもありはしない。

 どこに行こうとも命じられることは同じ、きっと何も変わらない。それは諦めではなく、己の置かれている立場を考えてのものだ。

 常に冷静に思考する事を教えられた。

 焦りは失敗を生む、相手にそれを悟られる事も危険であると……しかし、ベリルの場合その感情の起伏の無さが人とはどこか逸脱した雰囲気を周囲に与えていた。

 それがブルーの言葉を現実のものとする結果にもなったのだろう。
< 115 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop