断崖のアイ
「何故、抵抗しなかった。抵抗するなと言われたからなんて言うなよ」

「……」

 ブルーを見上げ、視線を外す。

「興味がありました」

「!」

 これだけ色々なものを学ばされてもなお、知ろうとするのか……ブルーは眉をひそめ目尻を吊り上げた。
 己が襲われる事にさえ、一つの興味でしかない。

「同じ目に遭ったら抵抗しろ。殺しても構わん」

 彼の言葉に少し驚いた瞳を見せ、すぐにまた元の無表情に戻る。そんな少年に目を細めた。

 自分には抵抗する意識は求められてはいない、という認識もあるのだろう──少年の意図は解っているつもりだ。
 だからといって、そんなものまで受け入れる必要はない。あの男はただ、自分の欲望を吐き出す手段としてベリルを選んだに過ぎない。

 少年が抵抗しない事を知っているからだ、中性的な容姿も申し分ない。

 すでに接近戦においてブルーでさえ勝つ確率が五分となったベリルが抵抗すれば、格闘術の一つも身につけていないあの男に万に一つも勝ち目は無い。

 ブルーには精神面についての専門知識は無いが、少年の感情はどこかおかしい事には気がついていた。
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