断崖のアイ
 いくら治癒が早いといっても、その痛みは常人と変わらない。第二のベリルを造るべく行われる研究や実験の中には、大きな痛みを伴うものもあるはずだ。

 しかし何故だろうか……彼はそれに耐えながらも、怒りや憎しみを少しも表さない。長年の戦闘訓練と経験で相手の感情の移り変わりを敏感に察知できるブルーでさえ、少年の感情を読み取ることは適わなかった。
 心を隠す術(すべ)が優れているという訳では無いのなら、怒りや憎しみといった負の感情を持っていないという事になる。

 ベリルはこの先、さらに強くなるだろう。

 だが、彼には決して自由は与えられない……いつかは、誰かを殺めるためにここから放たれる。自由を眼前に映し出しながら、手にする事の出来ないもどかしさを心に積み重ねていくのだろうか。

「ベリル」

「はい」

「自由が欲しいか」

 苦い感情がブルーの口を動かしていた。少年は瞳を丸くしたかと思うと、口元を薄く緩ませる。
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