断崖のアイ
「解りません」

 曇ったエメラルドは白い壁を霞んで映し、そこにあるはずの存在感を曖昧にさせる。時折、放つその雰囲気はブルーだけが感じ取れるものだった。

 静かな少年の内に眠る感情は、変化を表さない言動だけで葛藤を繰り返しているのだろう。己の存在に対する心のせめぎ合いは誰にも気付かれず、ただ1人で闘っている。

「……お前はそのままでいい」

「!」

 少年は、視線を合わせしばらくキョトンとしていたが小さく笑んでデスクに向かった。その背中を見やり、室内を見渡す。

 広大な敷地の中にあってもベリルの移動範囲は制限されている。建物の外に出るには、必ず最低1人は付き添いがいなければならない。

 ここはまるで……

「箱庭だ」

 ブルーは口の中で発した。
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