断崖のアイ
 アメリカにとってやや目の上のこぶ的な事業家を暗殺するというものだが、難易度は易しくても罪のない人間を殺める事に代わりはない。

 一度も外界に出た事の無いベリルは、おそらく瞬時に全てを把握するだろう。マップを渡せば数分で記憶し、確実にターゲットを仕留める。

 ブルーにはそれが手に取るように解っていた。それ程に、青年の能力は異常な高さなのだ。しかし、その心は誰よりも優しい。

 本来ならば、自分の意識と現実との壁に精神を崩壊させてもおかしくはない。そのせめぎ合いに、どう折り合いを付けているのか……ブルーにも計り知る事が出来なかった。

 どうしてここまでベリルに気を揉んでいる? 自分の子どもでもなければ血のつながりも無い、ましてや人間と呼べるかどうかも解らない。

 それでも時折、見せる笑顔や柔らかな眼差しに心が安らいだ。

「頃合いか……」

 宙に発し、スライドドアに足を向けた。
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