断崖のアイ

*出発の時

 トレーニングを終えてシャワーを浴びて部屋に戻ると、いつでも発てるように荷物をまとめた。

「……」

 手にしている30㎝ほどの棒状のものを見つめる。軽く振り下ろすと金属音を立てて1mほどに伸びた。装飾の施された芸術性の高い棍だ。

 素材も特殊な合金で作られていて、とても頑丈で軽く扱いやすく手に馴染む。確認して仕舞い、次に携帯を手に取った。

 2つ折りのスマートフォンは液晶を守る意味でこの形状なのだろう。液晶の強度にも限界がある。闘いを主とする人間には出来るだけ丈夫で長持ちさせるものを持たせる事が良い。

「ベリル・レジデント……」

 一度も会った事の無い相手に緊張が隠せない。ここまで手こずらせている存在は彼のみだという事も理由の1つだが、特殊な力を持たない相手という事は身体能力だけで打ち勝たなければならない。

 人間の持つ力と力のぶつかり合い──強さのみが求められる使命だ。

 打ち負かしてのち、捕らえなければならない。弱点が無いというのは困りものだとつくづく感じ溜息が漏れた。

 優秀だとは言われても、実戦を積んでいる訳じゃない。そんな自身とは違い、相手は百戦錬磨の不死者……闘ってみないと何とも言えないが気後れしてしまうのは当然だろう。

 それでも勝たなければ、捕らえなければならない。

「……」

 決意を胸に強く目を閉じた。
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