断崖のアイ
 女も立ち去ろうと一旦ベリルに背を向けたが、ふと立ち止まり顔を向ける。

「来な」

 視線を合わせるとあごをクイと動かし、ついてくるように促した。ベリルは、待つつもりのない背中を数秒ほど視界全体で捉えると表情を変えずにあとを追う。

 見てはいなくても、ブルーはすでに死んでいると解っていた。施設内に生存者はほとんどいないだろうという事も、彼にはなんとなく解っていたのだろう。

 断末魔が染め上げる空間は、何故だかベリルの胸を締め付けた。ブルーが行けと言うのなら従おう。これだけの事をしたほどの言葉なのだ、拒絶する理由は無い。

 この先の不安は、自由という言葉の輝きにかき消された。
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