断崖のアイ
 彼女がベリルを引き取ったのには、いくつかの理由があったのだろう。その一つは、男女関の問題でもあった。

 常に強気な彼女にも時折、襲い来る孤独感がある。それに耐えられなくなったとき、彼女はベリルの部屋のドアをノックする。

 このときだけは、師ではなく1人の女性に変貌した。

 彼女の寂しさを紛らわせるために、頭をなでキスを与え抱きしめる。求められる肌の温もりに素直に応えれば彼女は満足した。

 彼女が体を求めたのは、ベリルの淡泊な性格もあったのかもしれない。恋愛感情が希薄で、面倒な関係には成り得ない。

 例えようのない寂しさをただ、治めてくれる温もりが欲しいだけなのだ。それが解っているから、ベリルも拒否すること無く従っていた。

 自分たちが依頼された生物兵器がベリルである事を、彼女は気付いていたのだろう。青年の言動は一般人のソレに比べて酷く違和感があったのだから。

 それでもベリルを突き出さなかったのは、人と何ら変わりない容姿に躊躇いの心が生まれたのかもしれない。
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