断崖のアイ
「彼女とはどれくらいいたのですか?」

 青年の声にハッとして現実に戻る。

「不死になるまでの5年ほどだ」

「それからは1人で?」

 問いかけに無言で頷き、リビングテーブルに乗せられているグラスを手に取る。炭酸飲料を口に含み、確かめるように流し込む。

「どうしてだかね、迷う事もなくこの先どうするのかを理解出来た」

 大きな何かに流されている自身を感じていても、それに抗う事は敵わなかった。

「私は満足している」

「!」

「目の前に広がる世界に手を伸ばせるのだから」

 緩やかで心地よい彼の声に、青年は目を細める。その言葉は、真実であり偽りなのだと知っていても、それを述べる口はユーリには無かった。

 今更、解っている事をわざわざ発してなんになる。それを口にした処で、彼はただ微笑むだけだ。

 大きすぎる力に杭を打ち込むには、彼はあまりにも無力なのだ。そして、ユーリ自身も無力な1人の人間でしかない。

 決して、敵う事のない祈り──ユーリは強く瞼を閉じた。
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