断崖のアイ

*思考の罠

 次の日──2人はホテルをチェックアウトして町の中を行くあてもなく歩き始める。とはいえ、ユーリは彼のあとをついていくだけだ。

「ユーリ」

「! はい」

 唐突に名を呼ばれ視線を向ける。

「まだ知りたい事があるのか」

「!」

 少しばかりの煩わしさを声に感じ取る。今まで1人で行動していた彼にとって、ユーリは邪魔な存在でしかないのだろう。

 もっとも、それだけではない事くらい青年にも解っている。それでも、青年はどうしてだかいま離れるべきではないと心の奥で感じていた。

 わたしは彼の過去を知ったに過ぎない、それだけで戻る訳にはいかないのだ。

 何も告げずに彼と行動を共にしているが、『U n G』では行方不明という状態なのだろうかと若干の不安が過ぎった。

 彼を護る組織があるとするならば、『U n G』の追跡を逃れていた理由も理解出来る。そう思うと現在、『U n G』がわたしたちを捕捉しているとは限らない。
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