断崖のアイ
　太陽が真上近くまで昇る時刻──本来なら複数の人影があってもいいはずの自然公園には、一つの影も見あたらない。

　ベリルは気配を探りながら雑木林の中に足を踏み入れた。

「勘がいいのねぇ、歳のせいかしら？」

　若い女の声に眉をひそめ、目の前に立っている数人の影を一瞥していく。

　２０代後半だと思われる４人のうち、女は１人だけだ。暖かな陽差しの中で、厚着の者は異様なほどの違和感を放つ。

　ベリルを警戒しているのか、その服装から感じ取れる武装は油断してはならない事を彼に教えていた。

「何の用だ」

「解ってて訊いてる？」

　リーダーである女の声に、他の男たちが一斉に散らばりベリルを取り囲む。

「あなた、とっても魅力的だけど、残念ね」

　取り出した黒い塊にベリルの瞳が険しくなる。
< 138 / 226 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop