断崖のアイ
「知ったことか」

「そうやって言葉少なくおっしゃっている中に、どれほどの甘さがあるのでしょうね」

 あなたはすでに人を超越した存在だというのにまだ人間に同情するとは、はなはだ納得がいきません。

「決めるのはお前ではない」

「どうあがこうと、あなたを解放する気はありませんよ」

 あなたから見ればあたしなど青二才でしょうけれどね、あたしにはあたしの信念があるのですよ。

「それが、あなたを必要としている。ここにいる者は全てあなたの下僕です」

 恍惚と腕を掲げ、言葉は広い空間に響き渡った。

 ベリルは、「馬鹿馬鹿しい」と言いたげに視線を外して溜息を吐く。その姿にさえ、ナフタリは魅入られたように目を細めた。
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