断崖のアイ
 そして奥歯を噛みしめた。

「彼には旅を共にする相手も自由に選べないと言うのですか。人は自由を得る権利があるというのに」

「ベリルは特別な存在だ、同じにするとは呆れる」

「それはっ」

 特別でなければ、どうして捕らえようとするのか──過ぎったものに声を詰まらせる。

「しかしこれでは……命のうえに無理矢理、築かれたものだ」

 彼はそんな事を望んでいるだろうか?

 己の人生、全てを懸けて崇拝される事は、その人の命を無理矢理に負わされるのと同じだ。

「ベリルが望もうと望むまいと関係無い」

 崇拝される者に、そもそも自由などありはしない。人は勝手な解釈で事を成す。

「同じ神を崇拝しても、同じ生き方にはならないのが証明だな」

 それが、ベリルという存在をまったく別のものとする意識を生む。

「ベリルの存在が是か非か、決めるのは俺たちじゃないのかもしれない」

 それでも──

「人には、すがるものが必要なんだ」

 つぶやいたカーティスの言葉に、ユーリは目を伏せた。
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