断崖のアイ
 勝手な理屈でなければ成せないものもある──そう割り切ってしまえれば楽かもしれない。

「わたしは……迷っているのか」

 彼を捕らえる事はヴァチカンの命(めい)だ。

 ならば、捕らえなければならない──しかし、どこかでそれに迷いがある。その迷いを振り払えるだけの理由が欲しい。

 何度それを繰り返しても、未だ理由は見つからない。

 彼らのように、代わりの信念を見つけてしまえれば悩まずに済んだだろう。我ながら自分の堅さに呆れてしまう。

「ハ……」

 どうせ、わたしに捕らえることは出来ないんだった。自嘲気味に笑んで、窓に視線を移す。

 どうしてそこまでベリルという存在にこだわるのだろう……彼が特殊な存在である事がその最たる理由なのは解っている。

 しかし、それが彼にこだわる理由にはならない。

 わたしは何をしたい、わたしは何を待っている──終わらない思考に頭を抱え、閉じた瞼(まぶた)に力をこめた。
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