断崖のアイ
 酷い音が部屋に響き、手のひらが裂ける。

「!? うわあっ!?」

 思いもよらないベリルの行動に、男たちはうろたえて後ずさりした。

 ベリルは痛みに小さく呻き、鉄格子の扉を血まみれの手で掴む。赤い液体が重力に従って金属をつたい、流れ落ちていく。

「い、一体なんのまねだ!?」

「奴が求めるものは神からの愛だ。人間は嫉妬の対象でしかない」

 つぶやくように発すると、男を睨み付けた。

「なに言っ──」

 応えようとした男の耳に、カチャリ……と金属の落ちる音が響き、その音に視線を辿る。すると、黒い塊がベリルの前に転がっていた。

 これは鉄格子の鍵だ。

 金属がこすられてきしむ音に、男はゆっくり顔を上げる。そこには、抜け出せるはずのないベリルが鉄格子のこちら側で無表情に立っていた。
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