断崖のアイ
◆第1章~対峙

*隔たり

「暑くないのですか?」

「!」

 車を運転している男が苦笑いで発した。

「途中で着るのは面倒なのですよ」

 そう応えると再び笑みを浮かべる。

 赤道から上と下では季節は逆転する。青年の姿はこの地にあって見る者に違和感を覚えさせた。

 分厚い生地のコートではないため、彼には耐えられる程度の暑さだ。

 空港まで乗せてくれた気さくな運転手に礼を述べて、小型のジェット機に乗り込む。表向きは小さな旅行会社の飛行機となっているが、組織の専用機である。

 途中で一度、給油して少しずつ目標へと近づく機体の中で1人青年は眼下に見える雲を眺めながら脳内で戦闘のシミュレートを何度も行っていた。

 相手の動きは記録として残っていたため、そこから自分なりにパターンを組み立てていく。しかし、何度見ても彼の動きを予測しきれる自信はなかった。

 組織が予測した彼の戦闘レベルが『未知数』と出ていたことにも眉をひそめる。

「……」

 携帯に移したデータと画像を見つめた。

 もしかして、彼について組織はほとんど解っていないんじゃないだろうか……そんな思考が過ぎる。
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