断崖のアイ
 いっそ、深海にでも沈んでやろうかと考えた事もあったが、そうまでして自身を追い込みたくはなかった。

 人混みに紛れても、その流れに乗る事の敵わない己に自嘲する。

 見えない無数の腕が彼の周囲をぐるりと覆い、もがくその手は空を仰ぐ──助けを求めるのではなく、ただ「自由でありたい」と祈る。

 いつも、何度でも……ベリルは閉じていた瞼(まぶた)を開き、鋭く宙を見つめた。




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